三重県立盲学校

平成22年度 公開講演会

「視覚障害児の触図学習―イメージを育てる触察指導のあり方―」

夏季休業中の8月1日、 筑波大学附属視覚特別支援学校 教諭 青松利明先生をお招きし、公開講演会を行った。

内容は、ご自身の留学や海外での活動、国内外におけるボウリングの活動など多岐にわたる様々な経験から現在に至るまでの経験や、それに基づいた視覚障がい児への触察指導を、資料を使いながらのお話であった。

<講演の内容>

○触察の特性に配慮した指導

視覚障がいは情報・空間の障がいであると言われ、触った場所しか分からず全体像の把握が難しい。その為、段階的・構造的な説明が必要であり、基準となる点を意識することが大切である。また、安心して触ることができる雰囲気作りや、触察のための十分な時間の確保、良いものだけを触らせるという教材の精選、適切な言葉によるフィードバック、ノートへの記録方法など、視覚に障がいのある児童生徒を指導する際に配慮する点を指摘された。また社会の中で生きていく為に、自分で選ぶ経験が必要であり、そのために触察する力を育てる指導が大切であり、系統的かつ継続的に指導を行う必要性を力説された。

○表の読み取りおよび内容の理解を促す指導

一覧して瞬時に内容を簡単に読み取ることができるのが表の大きな利点として挙げられるが、点字使用者や弱視者にとって一つの表を読み取って理解するのにかなりの時間がかかり、内容の理解が難しいことが少なくない。その為に、点字使用者や弱視者にとって読み取りやすい表の作成をすることが大切である。また、表を読み取る際に構造的な説明が大切である。講演の中では実際に点図で書かれた表を用いながら、表を用いた学習の指導、教材としての表の作成についてお聞きすることができた。

○社会科における地図の指導

視覚に障がいのある児童・生徒が地図を嫌いだと思っている理由について、分かりやすい地図が少ないことや、言葉による説明で満足してしまっていること、身の周りの環境を把握する機会が制限され空間に対する興味・関心が育たないこと、身の周りの環境を把握する時の適切なフィードバックが少ないこと、地図を使って目的地に到達するなどの成功体験が乏しいこと、高度な触察力が求められることなどが挙げられる。

そして、視覚に障がいのある児童・生徒の地図帳を用いた学習における問題点としては、形全体のイメージがつかみにくいこと、触って理解するまでに時間がかかるため、内容の理解に集中できないこと、多くの要素が一枚の地図の中に混在しているため、学習に必要な要素の抽出や相互の関連付けが行いにくいこと、読み取り方法の理解が不十分なまま読み取るために必要な要素を抽出しにくいこと、以上のような理由のため、児童・生徒が図を読み取ることや統計資料を読み取ることへの負担感が大きく、地図や統計資料への興味・関心が低下してしまうことを挙げられた。

また、これまでの点字地図帳では、地図と別冊の解説が煩雑であることや、実際の名称を連想することが困難であること、弁別に時間がかかること、空間的な位置づけを理解しにくいこと、一つの地図の中の情報量が多いこと、レイアウトの把握が困難であること、地図の向きを確認するのに時間がかかることなどの課題を挙げられた。

これまでの点字の地図帳の課題などを説明しながら、視覚に障がいのある児童・生徒に分かりやすい地図についての説明もなされた。そして、あたらしく開発した点字版「基本地図帳」の構成について、触察資料を使いながらの説明もあった。

最後に、地図帳を活用した指導における留意事項として、地図や統計資料の全体像・構造・基準点の確認を入念に行うことや、時間を十分確保すること、気付いたことを言葉で表現させ確認すること、触りながらイメージが膨らむように工夫すること、情報を主体的に確認する力を育成すること、普段から生活経験を軸とした身の周りの空間や環境に対する興味・関心を高め、空間に対する認識や意識を育てることが大切であることなど、社会科に限らず、今後の指導に役立つことを数多く教えていただいた講演会であった。


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