三重県立盲学校

平成21年度 公開講演会
「私の歩んできた視覚障がい者教育」

本年度も、夏期休業中の8月31日、 京都府立盲学校 中・高等部国語科の岸博実先生をお招きし、公開講演会を行った。

内容は、岸先生の盲学校での36年間の実践をベースにしたものであった。自己紹介は、「社会科教員を志望したが、大学の専攻に進む際に赤緑色弱であることが判り、地図の指導に支障がある≠ネどの理由で社会科に在籍できなくなった。(現在はそのような取り扱いはない。)それで国語に移った。京都府に採用されたとき、盲教育に関する知識は皆無だった。『盲学校になら採用する』と伝えられ、翌朝、あたふたと地元の盲学校を訪れて、相談に乗っていただき、心を決めた。それから、36年目となる」とのことであった。


《講演の内容》

○視覚障がい者(児)の教育・支援の仕方について

盲乳幼児の「動きが少ない」と感じた。眼疾だけの単一障がいであっても、動機付けとなる視覚情報が入って来ないため、外界への興味、それに発する行動へとつながりにくいことに気づいた。言葉として知っていても、状況把握が十分できず、意欲や動作へ直結しにくいのではないかと推測された。例えば、「おいで」という呼びかけが聞こえていても、近づいて来ないことがある。しかし、動いてみたら抱きしめてもらえたなどの経験を重ねるなかで、言葉が「意味あるもの」と充実し、物や人に対する興味・行動へとつながっていく。

○他の小学校との交流について。

京都府盲では、年に数回、一般の小学校・中学校などとの交流を行っている。わずかな時間、回数でも、生涯にわたる「親友」となった絆を築いた例があり、それを実現した子どもたちに感心させられた。交流や共同教育の価値を見直したい。

京都府盲では、一泊二日のサマースクールを、盲学校の子と通常校に籍を置く視覚障がいの児童などといっしょに行っている。昼は、実験やスポーツを一緒に楽しみ、夕方から朝にかけても、盲学校の子と統合児らが共に過ごす。今年の場合、二日目には、自分たちで交通手段を決めて公共施設まで「自力で行く」取り組みも試みた。統合型の子どものなかに「手引きされての移動」に依存しがちなケースもあるので、有意義な経験になった。ともに過ごし、感じ方や行動を交流することが、互いの個性や障がいについての自然な理解にもつながっていくようだ。

○墨字を全盲者に教えるために

点字がない時代には、盲児の背中や掌に墨字を書くことから始まった。しかし、それはすぐに消え去る文字であった。そこで、文字を立体的な「モノ」に表現する教材が作られた。木刻凸字・凹字をなぞらせるようにして、目の見えない子にも墨字を獲得させるようにした。木刻凸字の木片には上辺の真ん中に刻みをつけるなど、「見えない」ことへの配慮がほどこされていた。「凸と凹の両方」が用意されていたのは「個に応じた教育」がなされていたと捉えることもできる。

次いで、紙にプレス(型押し)する方法で、イロハやイソップ物語まで作られた。製作や持ち運びの簡便さも追求されたようである。

文字を書く練習は、平たい蝋の表面をヘラで削ることから始めた。次に、針金の格子に触って1字分のスペースを感じ取り、鉄筆に力をこめて紙を凹ませるようにして普通文字を書いた。上達すれば、糸で作られた格子での練習もした。最終的には、紙に折り目をつけ、二本の折目の間を「一行分」のスペースとし、そこに文章を綴っていくことまでさせた。非常に高い到達を示した生徒もいるが、難しい学習法だった。それを根本から改善したのが、点字の導入だった。

ご紹介した、これらの教具が 京盲の資料室 に残っている。開設した年、あるいは翌年にはすでに活用されていた。現存する明治期の教材・教具や公文書は、現在、京都府の文化財に指定されている。外部からの見学者にも見ていただくようにしている。

○点字について

もともと、点字は、フランスの軍隊で暗号として使われていたものをヒントに生みだされた。ひもの結び目の数などで表すその技法を、紙の上の点の組み合わせへと飛躍させたのが点字になっていった、という歴史がある。

○特別支援教育に変わって、

過去には、盲教育と聾教育は「盲唖学校」として同じ場所で行われる例が多かった。しかし、障がいの特徴差や指導法の違いから、盲聾分離が叫ばれ、多くの時間を費やして、独立した盲学校、聾学校へと分離された。昨今、特別支援教育への移行のなかで、異なる障がいを一くくりにするかのようなやり方が始まっている。ほんとうにうまくいくのか、疑問を感じる。また、近年の傾向として転勤が早くなり、専門性の継承がしにくくなっている。現場からの意見を上げていかなければ、充実した[教育・支援]とはなっていかないのではないか。特別支援教育の先を見通していくため、考え続けていく必要がある。


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