三重県立盲学校

福祉的な立場から「視覚障がい児・者の自立」に
     向けて必要な課題について
  (盲重複、中途障がい、精神的な課題のある人、弱視、乳幼児に向けて)

2007.6.28.
京都ライトハウス(外部リンクです。)
加藤 俊和氏

講師の先生よりいただいたレジュメを中心に掲載します。

*印の付いた項目見出しは、編集者が記録を基に要約したものです。

1.障がい者福祉はどう変わろうとしているか
2.自立支援法の影響
3.障がい児教育・福祉の大きな流れ
4.その他
*日本の視覚障がい者数(厚生労働省調査)から考える
*質疑応答より

1.障がい者福祉はどう変わろうとしているか

(1)障がい者の歴史を作ってきた視覚障がい者

昭和11年(1936年) 全国盲人調査実施(67,881人)

昭和23年8月18日 日盲連結成。「盲人福祉法」制定運動。ヘレン・ケラー来日

昭和24年12月  身体障害者福祉法公布(翌年施行)

(なぜ全盲は1級、全ろうは2級?…視覚障害の不自由さ認識)

昭和26年6月  社会福祉事業法の施行、28年に日本盲人社会福祉施設協議会

昭和31年4月  日本盲人福祉委員会(日盲委)結成

昭和33(1958)年 日本身体障害者団体連合会結成

(2)福祉施策の大きな転換

措置費制度 → 利用契約制度(利用料徴収、利用日額実績補助)…“サービス”?

(国の責任:国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利は?)

<措置費:
1946旧生活保護法(←救貧法)、48児童福祉法(←浮浪児保護要綱)、
1949身障者福祉法、60精神薄弱者福祉法、63老人福祉法、64母子福祉法>
平成10年(1998) 改正児童福祉法施行(平7公布):保育所が措置から契約へ
平成12年(2000) 介護保険法施行(平成9年公布):高齢者が措置から契約へ
平成15年(2003) 支援費制度施行(平成12年法改正):障がい者が措置から契約へ
平成18年(2006) 障害者自立支援法施行(平17年11月公布):精神障がい者契約へ
平成21年(2009) 法改正へ?(生活保護?)
2007.6現在、“障がい者福祉と介護保険統合”の2009年度実施は見送り(継続)。

2.自立支援法の影響

(1)自立支援法は三つの部分に

自立生活給付:
介護保険へ…ホームヘルプ、ショートステイ、療養、生活、児童デイ、グループホーム
地域生活支援:
障がい者福祉“サービス”は市町村へ
自立支援医療:
更生医療、育成医療、精神障がい者通院医療(注意!)

 (2)障害程度区分:視覚障がい者は介護度での障害程度が非常に低い。

身体介護度による基準。障害特性への配慮なし。介護度改善努力・リハ意欲なくす

判定用106項目のうち、視覚障害に直接関係は1項目のみ。

 (3)“障がい者福祉は地域生活支援へ”

市町村事業:
相談、コミュニケーション、移動支援、日常生活用具、地域活動支援センター
都道府県事業:
専門性の高い相談、支援者・指導者・奉仕者育成
その他
(視覚障害関係では、点字・声の広報、日盲連情報ネット)

限られた財源を3障害へ…障がい者間でも取り合いへ

(4)必要な取り組み:一人一人が各自治体への働きかけを市町村に。他地域情報活用。

働きかけ続けないと認められていたものも消える…。「力」の差で地域格差増大


3.障がい児教育・福祉の大きな流れ

(1)特別支援教育は“障害を越えて”

「特別支援」校の増加:三重県は11養護学校が特別支援学校に。京都市は総合支援。

各障害に必要な専門性が軽視?…でも、特総研短期研修(3か月)参加も

一般校へと望む親の多くは、盲学校=少人数、暗い、“隔離された所”のイメージ

視覚障がいのみの児童は一般校?(2007年度センター試験点字受験1名、音大合格)

だのに、点字教科書、拡大教科書すらボランティア頼み。専門性極端に不足。

巡回教員はいつまで?(養護学校の生徒数増加、盲学校の減少・教師数の減少)

 (2)福祉施設も“障害を越えて”=介護が基準、また、点字図書館にも指定管理者制

視覚障害施設→身体障害対象へ、→全障害(精神障害も)対象へ

「視覚障がい者・児」への支援が相対的に弱まっていく …

 (3)本来の「個別支援」には専門性が不可欠

・厚労省役職者からは「人口比率」の言葉も。元々「マイノリティ」支援のはず

個々に適合・対応した支援が必要なのに、少数者への対応が弱くなりつつある。

・専門性がしっかりとしていないと個別支援はできない

点字はもとより、視覚障がい児の教科教育、歩行指導、生活指導など

「盲」と他障害の重複も、種類・程度で対応は異なるので高い専門性が必要。

一例:

JASEB(日本理科教育研究会)に三重盲の小学部の先生毎年来られる:

実験観察の「生徒が生き生きする実験」の発表が注目された。

 (4)点字教科書、拡大教科書、教材・教具

多様な文字の大きさや点字などの中から個々の生徒に適合した形態を選びたい。

盲学校ですら、1種類の点字教科書、拡大教科書に合わせざるを得ない

他の教材はなかなかない、手作りを…そんな時間がない…。

(5)専門性の積み重ねと継続性が必要

教師間の連携による経験などの積み重ねと記録の継承

適した教材を製作する技術の積み重ねと継承  → 専門性を保つのがやっと…


4.その他

(1)障害者権利条約

97カ国が署名、日本は検討中、日本語訳もまだ。理由の一つ「インクルーシブ教育」

(2)点字受験の状況と“門戸開放”

地方自治体で点字受験を認めているところもいくつか。一般枠と障がい者特別枠。

まずは問い合わせ、なければなぜできないのかを尋ねることから。そして交渉。

(3)視覚障がい乳幼児に対する指導・支援について

視覚障がい児の誕生→眼科医見放し→保健所? … 親はどうしてよいか分からない

「視覚障がい児デイ」は全国でもわずかしかないので、多くの盲学校で「乳幼児相談」

相談、生活、遊び、玩具、生活動作の学習方法、体験…音も触感も光もにおいも

(京ラの「あいあい教室」は視覚障がい児と親の実体験の場、学びの場として30年)

今、自立支援法の中で指導員を確保し経営していくのに必死。訪問範囲に限界。

京都ライトハウス(外部リンクです。)、http://www.kyoto-lighthouse.or.jp (TEL.075-462-4400)


*日本の視覚障がい者数(厚生労働省調査)から考える

視覚障がい者数(単位は千人)。( )内は、年度

  1. 179(1955)
  2. 202(1960)
  3. 234(1965)
  4. 250(1970)
  5. 336(1980)
  6. 307(1987)
  7. 353(1991)
  8. 305(1996)
  9. 301(2001)
  10. ?(2006)

・1980年からは、日本の360分の1の地域だけを調べて、360倍するという調査方法になった。

・1987〜1996年の数値が明らかにおかしい。どこの地域が選ばれるかで、数値が変わってくる。視覚障がい者は、住むところに偏りが生じる。結果として統計誤差が生じているのではないか。それほどに視覚障がい者は、少数者である。

・少数者である視覚障がい児・者にしっかりとした同じ人間としての支援ができるのかどうか、それが本当は問われているのではないか。


*質疑応答より

Q1.

・今京都ライトハウスの入所者の方・通所者の方、どのようなことをしているかの内容について、教えてください。
・名古屋や大阪の施設との違いについて、教えてください。

A1.

複合施設、一つの法人で幾つかの施設を経営しているところがある。その中でもっとも有名なのは、 日本ライトハウス(外部リンクです。) である。歩行訓練や生活訓練を行う視覚障害リハビリテーションの部門がある。一般的な訓練だけでなく、病気の補助をおこないながら訓練を行う部門がある。授産施設が三つある。点字出版と点字図書館と盲導犬訓練所、職業訓練まで持っている。総合施設である。

京都ライトハウスは、それとは違った意味での総合施設である。日本ライトハウスは、大人向けの施設をかなり幅広く持っているのに対して、京都ライトハウスは、乳幼児から盲老人までという幅の広さを持っている。

盲乳幼児デイサービス(外部リンクです。) 、週1回の利用、1日10人で週50人。京都府下にも訪問、月1回。

授産施設、FSトモニー(外部リンクです。) 、30人の定員、月2万円を出そうと努力している。点字印刷、テープ起こし、点字用紙のリサイクル用品、着物のリサイクル、 喫茶店(外部リンクです。) 経営など。

鳥居寮(外部リンクです。) 、生活訓練・リハビリテーション施設、30人定員であるが、16人しか入れない。通所訓練、パソコンもおこなっている。

らくらく(外部リンクです。) デイサービス、生活介護事業所になった。地域活動支援センターを立ち上げようという考えもある。

盲養護老人ホーム、 船岡寮(外部リンクです。) 、50人ぐらいの人が入所。

点字図書館(外部リンクです。)点字出版(外部リンクです。) 。点字出版所、情報製作センターと名前を変えて、点字も録音もやっている。

Q2.

地方公共団体等での雇用に際しての点字受験について、お考えや展望をお聞かせください。

A2.

全国の自治体で点字受験を認めているところ、はっきりとはわからないが、30を下ることはないと思われる。

近畿で言えば、京都、大阪、和歌山、兵庫?神戸市。それから、名古屋市。大きな市と県では、点字の受験を認めている。あまり知られていない県もある。和歌山は、20年にはなる。ところが知られていない。

大阪市では、特別枠と一般とがある。兵庫県、神戸市、明石市、京都市などにも特別枠がある。

特別枠は、障がい者対象なので、合格率は高くなる。障がい者は、絶対必要なんだということを運動して、成果となって認められたところと自治体の方がやったところがある。運動をやったところの方が、受験者もいて、よく知っているというところがある。だから、運動が大事で、そう言った運動というのは、とっくの昔に解散しているが、文月会が、大学門戸開放だけでなく、自治体の試験なども調査をしてやってきていた。

特別枠を、視覚障がい者というのは、行政の中に絶対必要なんだということを認めさせることというのが大事な部分であると思う。公務員を減らせという大合唱の中では難しい部分もあるが、障がい者の権利も守られずにいるわけで、そういうことも知らない。一人視覚障がい者が入ったら良いというわけではないが、それが一つの契機となる。そういう意味で、「なぜ認められないんですか?」という問い合わせに始まり、運動にまで結びついていくことが大事だと思う。

国家公務員は、司法関係の分野の公務員では認められている。過去17、8年ぐらいはやってきている。その中で受験が多かったときもあるが、通ったのは、12、3年前に二種で通って、今、北海道の方に勤められている視覚障がいの方がおられる。受験者がないという年が続いている。前回は、あったが。確かに難しい、しかし、受けるというのも大切な要素ではないかと思う。

Q3.

日本の点字は小さい、点字の使用ということから考えれば、ちょっと大きめ、アメリカの点字など、点字を大きめに変えてしまおうということについて、先生のお考えをお聞かせください。

A3.

現在点字指導もしている。そういう中で、高齢者の点字指導もしている。

「なにわにわあにわいない」、「いわなわあなにわいない」とか、意味は、点字の1、2、3の点だけを使った文章。

「なにわにわあにわいない」を読めるようになるには、どれぐらいかかるか。70歳ぐらいの女性の場合、そこまでで半年。点字は絶対だめだと思っておられて、「あめあめふれふれ」が読めるのに一ヶ月半。大喜びだった。ほめないといけない。喜びが大事。「あ」と「め」が判ったということだけで点字をやる気になる。それだけで2週間。点字の恐怖感・偏見を取り除くのに二週間という例がある。

次に数字をやっている。1、2、3で二週間。4、5、6で一ヶ月。1、2、3、4、5、6のとき、大きい点字に切り替えた。4、5、6、大きい点字でないと難しい。

「大きすぎてわからんわ」という声もあった。「が」を「おわ」と読んでしまったことがあった。「め」書きと組み合わせて、「が」とか「お」「わ」を読むようにしたら、上下を触ると、ますが判るから、読めるようになった。この人の場合、大きい点字は、だめだった。

点字図書館に来られた方、訓練をしている人には、その人が希望される点字を出す。大きな点字を希望されるときには、大きな点字でプリントする。どんどん読みすすめられる人は、小さな点字を希望する。

ラージポイントの点字の需要がない。出版の方でも、全国でも、ほとんどないぐらい。大きな点字の出版物、ほとんど出ない。

その人に、今の状態に必要なものを提供する。その人に合わせる。

点字図書館でも、大きい点字は、注目している。しかし需要がまとまるまではいっていない。だけど必要な段階がある。


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