三重県立盲学校

資料4 視覚障害と知的障害を併せ持つ重複障害児童・生徒に対する学校生活の配慮と工夫

特殊教育特別専攻科                                      大平 昌幸

T はじめに U 方法 V 結果と考察 W 今後の課題

V 結果と考察

先進校の視察と現場の担当教員の方からの聞き取り調査の結果を参考にして、九つの観点から考察した。

1.見通しが持てる学校生活や授業にするために

2.健康の保持、身体機能や運動能力の維持、向上

3.時間割について

4.児童生徒のペ−スを尊重する

5.行事について

6.コミュニケ−ション能力と社会適応力の育成

7.重度の知的障害や自閉症の児童生徒に対して

8.保護者との関わりについて

9.教師間の連携


1.見通しが持てる学校生活や授業にするために

今回の研究で最も重要と考えたのは、学校生活全般や授業を児童、生徒達にとって見通しの立ちやすいものにするということである。この事は知的障害教育が最も大切にしていることであり、児童生徒が安心して学校生活をおくる上で不可欠な要素である。当然視覚と知的障害を併せ持つ児童生徒にとっても同様であると思われる。一日の日課、これからの行事予定等をその児童生徒の障害に応じた最も理解しやすい方法で伝え、次の行動を予測出来るようにすることは安心感を与え、自発的な行動を引き出すための第一歩となる。また授業に関しても、予め何について学ぶのか、何処まで学習すれば終わりなのか、どういう風に頑張れば良いのかを知ることが出来れば、児童、生徒も努力目標や到達目標が分かり、意欲や興味が起き、集中しやすくなると思う。 その日の日課や行事予定の伝達には、手触りや形に特徴のある物体と伝えたいことを意味的にリンクさせて、その物体を直接触ったり、予定表の札に貼り付け用いる方法が効果的であると思う。意味を対応させる物体は、生活年齢や発達段階に応じて、何を使用するか、決定したい。例えば小学校段階ではその児童の好きな物を、中学高校段階では生活年齢を勘案し、対応させる意味と物体に何らかの関連性のある物を利用するといった具合である。

ところで授業の開始時に教員から児童生徒へ、この授業で何を理解し、出来るようになって欲しいと思っているか、明示しておくことは、授業の最後に行う評価をより具体的な物にさせることができる。評価の中身は「良かった」、「ダメだった」と言うような曖昧な表現を用いずに、どこのどういう事が良かったか、また今後どうしていけばもっと良くなれるのか、具体的に提示することが大切である。そのためには授業開始時に明示した授業の目標に照らし合わせて評価を行えば、より価値のある物になっていくだろう。

またそれぞれの授業に対応したテ−マソングを授業の最初などに歌ったり流すことも、次の行動への見通しや何の授業を行うのかを把握させるのに役立つ。その時児童、生徒の好きな音楽を選択すれば、気分を盛り上げ、やる気にさせるといった別の効果も期待が出来る。

それに加え、指導者に授業の中で特定の役柄を演じさせたり、スト−リー性を持たせる試みも面白い。複数回その単元を繰り返す場合、スト−リ−性のある授業は自然な流れがあるため次の実施内容が予測しやすくなる。特定の役柄を演じる教員が中心指導者となって、決められた部分を授業すれば、その時行うべきことがその人の登場だけで予測出来ると考えられる。とにかく児童、生徒自身がスト−リ−の中に組み込まれて活動出来ることは楽しいことであるし、いつもと違う教員の姿は興味や関心を持つことに繋がるのではないか。

最後に教室ごとに行う授業内容を決め、その教室に児童、生徒を意図的に移動させると、次の授業への気持ちの切り替えを促すことも出来ると思う。

2.健康の保持、身体機能や運動能力の維持、向上

視覚障害者の運動量の不足は従来から指摘されてきたが、このことは健康の保持を困難にしたり、身体機能、運動能力の減退に繋がる恐れがある。その結果安定した学校生活がおくれなくなったり、行動範囲が狭くなることによって様々な体験が出来なくなったりする。特に体験の不足は事物、事象に対する概念形成にも悪影響が及ぶ可能性があり、避けなくてはいけない。また筋力の無さは姿勢を悪くして、身体を疲れやすくするので、情緒面での不安定さを引き起こす原因となることも考えられる。よって体育、自立活動、総合的な学習の時間等に、なるべく運動させたり身体を動かす時間を組み入れることが望ましい。その際は聴覚優位な児童、生徒が多いので、音楽を有効活用して、テンポ良くリズムにのって、歩いたり走ったり、様々な運動を行わせたい。 肢体不自由などの身体的な問題を抱える児童生徒の場合、是非とも機能訓練は取り入れたいが、その際理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の指導を仰ぐ事が出来れば、効果はより大きなものとなるだろう。

さらに刺激不足を満足させ、バランス能力、運動能力の向上のために、トランポリンやブランコなどの遊具を使った遊びも積極的に行いたい。そのためには児童生徒が安全に楽しめる環境の準備は必修である。

生徒によっては湿度や温度の影響を敏感に受ける児童、生徒もいるので、そのような場合年間を通じて一定に保ち、体調管理に留意する必要がある。

3.時間割について

時間割は、日々の授業内容が大きく変化してしまい、児童生徒が混乱しないように帯状の時間割を用いることが望ましい。

4.児童生徒のペ−スを尊重する

視覚障害者は聴覚や触覚で事物や状況の理解をすることが基本である。そのため移動や学習活動には時間を要する。ましてや知的障害を併せ持つ場合、理解し考え、行動を起こすのに時間がかかるケ−スが多い。この事を教員は強く自覚し、子供のペ−スに合わせた指導を行うように心がけなくてはいけない。授業においても無理に多くの内容をさせようとするのではなく、児童生徒が考える時間、行動を起こすまでの時間、発言するまでの時間を十分取り、我慢しきれず手を出してしまうことは避けなければならない。手出ししてしまうと自発性や自主性を育むことが出来なくなる。

また個々の生徒に応じた課題を習得させたい場合、課題克服のための手立てを学校生活の至る場面で、徹底的に何度も繰り返し行うようにしたい。粘り強く、丁寧な指導を積み重ねることが大切である。 それから自閉症の児童、生徒の中には、授業の課題が早く終わったので予定を変更し、もっとさせようとすると、最初に持った見通しが崩れ、教員が約束を破ったと認識してしまうケースがある。このことが情緒の不安定さを引き起こしたり、信頼関係を損なう原因にもなるので注意が必要である。

5.行事について

行事は児童生徒に様々な体験をさせる貴重な機会である。可能な限りバラエティ−に富んだ行事に参加させたい。特に四季を感じることが出来るキャンプ、落ち葉踏み、スケ−トやスキ−などは感覚を刺激できる効果的な体験になると思われる。また野菜や貝、魚などの生き物が生息している場所に行き、自然の中のありのままの姿を触ることが出来れば、その物の概念理解はより深まるので効果的である。

6.コミュニケ−ション能力と社会適応力の育成

視覚と知的の重複障害児・者にとって、社会性とコミュニケ−ション能力を向上させていくことは将来就労したり地域で暮らすことを考えた場合、最も身につけなければいけない課題かもしれない。視力の不足により他者の存在が認識しにくいので、継続して段階的に指導していきたい。そのためにまず最初に行いたいことは、一番身近なクラスメ−ト同士が関わる機会を多くするということである。授業や学級活動中に皆で手を繋ぐ機会を増やしたり、いつも歌う曲の歌詞にクラスメ−トの名前を取り入れ歌わせるのは一つの方法である。また当番の生徒を決め、出席や学級活動の司会を任せることも、互いの存在や特徴を理解させるには良い手立てである。それに加えて自分のことや考えを相手に伝える練習も並行して行いたい。例えば、毎日の朝の会、終わりの会で簡単に答えれることなどを発表する時間を一人一人設けたり、何かをする時は順番の希望などを児童、生徒に問いかけ答えさせたりして、意識を徐々に外界へ向けれるようになることから取り組んでいきたい。

7.重度の知的障害や自閉症の児童生徒に対して

重度の知的障害や自閉症の児童、生徒はこだわりが強かったり、注意を外に向け続けることが出来ず、自分の世界に取り籠もりがちであったりする。好みがはっきりしており、少しのきっかけで情緒不安定になり、自傷や他傷、パニックを起こす場合がある。よって落ち着いた精神状態で快適に授業が受けられるように、不快な刺激はなるべく避け、嫌がっている時は無理に活動に参加させないなどの配慮も必要になる。勿論外界の環境刺激に適応出来るようになっていくことが大切であるが、発達段階に応じた児童生徒の受容を考えなくてはいけない。事情が許せば教室の構造化をすることも一つの手段であるし、障害の程度に応じて本人の出来る範囲内で個別に授業を行うことも致し方ないと思う。また行事への参加は日々のル−ティンが崩れることに繋がるので、その児童生徒の障害の程度や当日の状態を見極め、無理に参加させないことも必要になるだろう。

8.保護者との関わりについて

当然保護者とは密接な連携をとる必要がある。学校や家庭における様子や体調の状態は連絡帳等を用いて情報は共有すべきである。日頃から保護者の学校への要望、将来への希望をよく話し合い、学校の教育方針、教育目標、課題設定などについて理解を得る必要がある。保護者との信頼関係が築けると、授業内容にも幅を持たせた思い切った指導を行うことも可能となる。

9.教師間の連携

通常重複学級は複数の教員で担当するケースが多い。それ故に個々の生徒の特徴を皆が理解し、共通認識を持って指導には臨みたい。児童、生徒にとっては多くの人と関わるチャンスでもあるし、役割分担をすることも可能となるので、行事や授業に幅が出来る。また児童生徒の観察も多角的に行うことが出来、より正確な状態把握が行える。


平成18年度盲重複グループ研修記録目次へ

TOPページへ              研修トップへもどる