上高ニュース

2016年度前期全校集会 校長講話

2016.07.19

本年度前期の途中ではありますが、明日から夏季休業日となる今日は、皆さんにとって学校生活の大きな節目になりますので、少し時間を割いて話をします。

 私が一人で買い物に出かけた時のことです。あるコンビニに入ると、2人のアルバイトらしき若い店員さんがいました。買いたい物をカウンターに置いた時、代金を支払ってレシートを受け取った時、店を出る時、店員さんはほとんど何も言いませんでした。店に入った時も「いらっしゃいませ。」という言葉がなかったことも思い出しました。
 「コンビニは便利を売る店だから、欲しい物が買えただけで十分ではないか。」とはとても思えず、やや気分を害したまま、次に行きつけのガソリンスタンドに行きました。そのガソリンスタンドは、機械にカードと代金を入れて自分で給油するセルフサービスの店です。店員さんはいるのですが、接客業務はしていません。帰宅する車の中で、「何かおかしい。人がいるのに言葉がない。」と思ったのです。

 セルフサービスの発祥地はアメリカです。アメリカは多民族国家で言葉の通じない人が多いため、会話の不要なセルフサービスが広まったと聞いたことがあります。日本でもセルフサービスは普及していますが、その理由は、アメリカのような言葉の問題ではなく、おそらく人件費の抑制という経営上の問題が理由ではないかと思われます。もしかすると、「煩わしさを避けたい」という現代人の意識もその理由なのかもしれません。
 セルフサービスは、コンビニやガソリンスタンドだけではありません。電車の切符、食堂の食券、銀行のATM、さらにはネットショッピングなど、どうやら私たちは、人と関わりを持たなくてもそれほど不都合なく生活ができる社会に生きているようです。これは、ある意味では技術革新がもたらした社会の進歩なのかもしれませんが、「人がいるのに話さない、話さなくても不都合がない」という状況は、本当に良いことなのかどうか。皆さんはどう思いますか。

 ところで、皆さんは、「誰のために、何のために挨拶をするのか」と考えたことがありますか。相手に対して親しみや敬意を表すためでしょうか。「相手のために」と考えると、例えば、先ずはクラブの先輩や顧問の先生、次に授業を受けている先生、その次に授業は受けていないが知っている先生、そして全く知らない来校者という具合に序列がついて、序列の高い方から挨拶するということになりかねません。また、「返事のない相手には、次から挨拶しないでおこう」などと考えてしまいがちです。
 私が考えるに、挨拶とは、「相手に自分の心を開くこと」ではないか。自分は心を開いたということを相手に知らせるために挨拶をするのではないか。心を開かないと言葉は出てきません。相手が誰であろうと、返事の有無など関係なく、先ず自分の方から心を開き、相手に言葉をかける。そうすると、相手も心を開いて言葉や笑顔が返ってくる。それが挨拶というものではないか。
 挨拶をすると、相手も自分も爽やかな気分になります。心が和み笑顔になります。背筋も伸びて元気になります。このように、言葉には「力」があるということです。

 次に、言葉にはこんな「力」があるという別の事例を紹介します。オリンピックで金メダルを取ったある水泳選手のコーチを務めた方が、こんなことを言っています。
 「スポーツ選手は基礎を習得し、ある程度のレベルまで達すると、自分には何が足りないか、それを強化するためにどのような練習をすればよいか、自分で考えなければならない時期が来る。この時、言葉で自己表現できない選手は伸びない。言葉のトレーニングを重ねることで、最終的にはコーチの要らない選手を育てたい。一流のスポーツ選手には、運動能力に加えて『言語力』が必要です。」

 ここに一冊の本があります。『言語技術が日本のサッカーを変える』という本です。著者は元サッカー日本代表で、現在、日本サッカー協会の要職を務める田嶋幸三さんです。この本の帯には、このように書かれています。
 「サッカーにおいては、論理的な思考が求められます。なぜならサッカーは、スピーディーなゲームの最中に究極の判断を求められるチームスポーツであり、刻々と変化していく局面に対してその都度、自分の考えを明確にし、それを相手に伝えていく必要が生じるからです。こうした姿勢や対応能力は、日本人がこれまで最も苦手にしてきた領域だといえるでしょう。」
 その瞬間、何故そのパスを出したのか、そのプレーの意図は何か、明確に説明できる能力がサッカー選手には必要だという訳です。田嶋さんは、日本のサッカーが今後、世界と互角に競い合っていくためには、身体技術に加え、言葉で考える力、言葉で表現できる力が必要であるとして、「言語技術」の重要性を強調しておられます。そして、ピッチの外のトレーニング革命を訴えておられます。

 私は皆さんに、「自立した学習者」になってほしいと強く願っています。そのためには、「言語力」が必要です。「言語力」は、人が人として成長する中で経験するたくさんの事柄を、言葉でまとめ上げていくことを通して、少しずつ向上していくものです。
 皆さんは、自分の「夢」を自分の言葉で明確に表せますか。その「夢」を実現するために何をするのか、自分の「挑戦」を言葉で具体的に語れますか。そして、5年後、10年後の自分の将来を自分の言葉で描けますか。これらを考え抜き、自分の言葉で納得のいく表現ができた時、自分の学習や生活に「推進力」がついてきます。
 自分の考えを正確に表現できる「言語力」、微妙な違いや複雑なことを相手に伝えることができる「言語力」を高めてください。正しい言葉をたくさん獲得し、その言葉で考え、判断し、納得いくまで表現してください。国語や英語だけ頑張ってもダメです。各教科の授業や様々な学習活動、部活動、そして読書を通じて、正確且つ論理的に、自由に言葉を使いこなせる人になってください。

 以上、「言葉の持つ力」とその重要性について話をしました。

 最後に、明日からの長い夏休み。休み明けには「いい夏だった」「何かをつかんだ」と振り返ることができる、そんな夏休みにしてください。特に3年生に言います。勉強漬けの生活も一つの青春です。「なりたい自分」に近づくための勉学に集中できる幸せに感謝しながら、毎日を過ごしてください。
これで、全校集会の話を終わります。

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