三重県立盲学校

平成24年度夏季公開講座
パネルディスカッション「視覚障がい者自立活動を語る」

毎年恒例となっている盲学校の公開講座は、本年度は8月29日に行われた。 パネリストは、本校教諭2名、中途で視覚障がいになられた方2名の4名でおこなったが、津市の広報誌に掲載させて頂いているので、一般の市民の方がたや教育相談関係の方がた、本校の生徒や保護者の参加もあった。

公開講座は、次のような流れで進められた。

現在の見え方をふくめて眼疾や、どのような仕事をされていたか。 また現在何をされているのかを含めた自己紹介。


・本校の理療科の教員。出身は大阪で、18歳まで両親と暮らしていた。 小さい時から弱視であったが15歳で失明。20歳からひとり暮らしを始めて現在に至っている。

・本校の小学部の教員。弱視であるが、時々一人暮らしをしている。眼疾が進行しているためその見え方によっていろいろと手だてを変えている。

・全盲です。多発性硬化症という難病で、平成15年に全盲となったが、それまではシステム会社でプログラマーをしていた。現在は無職。点字を覚えたりサウンドテーブルテニスなどに出会えて、前向きになった。両親と一緒にすんでいてすべてに自立している訳ではないが、工夫して生活していることを話したい。

・44歳の時に病名と眼疾の進行過程を告げられ、涙が止まらなかった。あちこちの病院を巡った。スーパーのレジをしていたが、職場で人にぶつかったりすることがふえた。自分の見え方を伝えると理解を得られたが、現在は自営業をしている。


1.現在の日常生活についての質問。

2.買い物はどのようにされていますか。

3.移動について、不便なことをどのようにしておぎなっていますか。

4.読み書きを含めた、コミュニケーションについて、どのような工夫していますか。

5.行政サービスやボランティアさんをどのように利用していますか。

6.現在、どのようにして、趣味や生活を楽しんでいますか。

7.自立生活を送るために、是非、身につけておいたらいいことなど。

8.参加者のアンケートの抜粋

9.その他、視覚障がいについて知りたいことなど


1.現在の日常生活についての質問。

不便さをどのように工夫をしていますか。

*衣について

着る服を選ぶ。洗濯(洗濯物表示について)。衣類の整理(箪笥など)、アイロンがけなどについて。

・(弱視)着るものに関しては、整理整頓をして、Tシャツや下着など分類をしている。洗濯は洗濯機。粉の洗剤より液体の物の方が難しいと思う。

・(全盲)着ることに関しては買う時に色を聞いて、覚えておく。量は覚えられるくらいで多くは持たない。形状記憶のシャツは助かる。色を識別する機械で知ることもある。靴下をそろえることが難しく、違う色ではいていることもある。洗濯は洗いやすいものを選んでいる。

・色や手触りは店員さんにお世話になっている。組み合わせなども。 手洗いできるものなど。服の整理はシーズンごとにおこなって、タッパーを使っている。しまってある場所はだいたい頭に入っている。洗濯は洗濯ネットを使って細かく分けると便利。アイロンはかけずに済む服を選んでいる。

・ひとり暮らしをしているので、なるべく散らかさずにしている。服を選ぶときは、店の人やガイドヘルパーさんにお世話になっている。洗濯ネットもいろいろな形で入れるものを決めている。

*食について

炊事・・・調味料の種類の見分け方、冷蔵庫の整理整頓、食器の整理整頓などについて。

・レトルトが多いが、野菜などは自分で切っているが、へたやくずはすぐに 捨てるようにしている。冷蔵庫も、入れている場所を覚えている。

・見えにくさが変わってくるので、やり方は変わってきている。

・なんちゃって炊事です。夕食のおかずは、宅配でとどけてもらっているが、ご飯は自分で炊いている。水加減にはこだわっている。味噌汁は白みそと赤みそを冷蔵庫に入れている。包丁は使えるが、スピードはまだまだ。

・朝ご飯はパンとくだものと牛乳など。冷凍していたご飯を食べることもある。 冷蔵庫の使い方は、ケースに入れたり、定位置に置いたりしている。

*住について

掃除、ゴミ捨て(分別)について

・視覚障がい者にとって、頭を打ったり、物を踏んずけたりすることのないような整った環境で暮らすことが一番心地いいので、小掃除や中掃除は、日にちをきめてやっている。ある程度片付いていないととってもひとりの生活はできない。ウエットタイプのシートなどで吹き掃除もしている。使い捨てのペーパータオル、使い捨てのトイレのスポンジなど、便利なものを使っている。

・ひとり住まいのところでは、なるべく物を増やさないようにすることと、出てきたごみは、その都度捨てるようにして、汚れないようにしている。

・湿気(かび)にはなかなか気づくことができない。トイレの水あかも、人に指摘されないと分からない。

・郵便物など自分ではわからないから、人が来た時にみてもらっている。

・あるていど手で探って床に物がないようにしてから、掃除機を使って掃除をするが、掃除機をかけていて、方向が分からなくなっていることがある。 しゃがむときは、垂直に座らないと、ぶつかってしまうことがあるので、注意が必要。

・ゴミ捨てについては分類しているが、捨てる位置はいつも一定になるようにしている。

・大切なものを吸い込んだことがあるので、掃除機は使わない。フローリングやたたみは、柄がついた化学雑巾を使っている。

・電気機器のスイッチなどには、ポチがついたシールを張っている。


2.買い物はどのようにされていますか。

・大きな買い物(マンション)をしたが、不動産屋さんにも、ひとりで行ってひとりで聞いて、自分で決めた。健常者と一緒に行くと、その人に対しての説明になってしまい、自分の意思が伝わりにくいから。

・契約の際、自署が必要となるが、相談の結果、公証人役場で立会人を立てて契約することができた。このことを通して、老後など、今後の自分の生き方に見通しが持てたと思う。

・値段がよく見えないTシャツを買おうと思ってレジに持って行ったら、2万円 だった。見栄をはって、買ったことがある。

・食べ物は、良く失敗する。缶に入っているものなど、思い込みで買ってしまって、中身が思っていたものとは全然違っていた。

・ネットで買い物をすることが多い。探すことが簡単だから。

・スーパーでは、沢庵のつもりだったのにたけのこだったりすることがあって、レジで返すこともある。

・5000円札のつもりで出したら、1000円札だったことがある。失敗もたくさん経験したが、親切な人もたくさんいる。

・八百屋さんで、イチゴを触って、手を払いのけられたこともある。スーパーはその点、気軽に買い物ができる。


3.移動について、不便なことをどのようにしておぎなっていますか。

・歩行訓練士にルートを作ってもらっているが、見え方が違ってきているので、ルートも変えてもらっている。

・車で出かけることが多い。

・車に乗らないと解決できないことが多いので、タクシーを利用することが多い。そのために、運転手さんに伝えなければいけないことなどは、あらかじめ情報を収集しておいて出かけるようにしている。触ってわかる地図を作ってもらったりして、自分の頭の中に地図を描けるように心がけている。

・ほとんど家族や友達の車で出かけることが多い。近くにバス停があるが、時間的に不便なので、あまり利用しない。駅まで送ってもらってひとりで近鉄線を利用するとき、駅員さんが声をかけてくれるので、心強い。

・移動支援ということで、ガイドヘルパーさんを利用して出かけることが多い。安心感がある。ひとりでタクシーで出かけることは、いつも行き慣れた病院ぐらいだが、家に引っ込んでいないように頑張っている。

・学校から帰るとき、バス停を間違えてひとつ前で降りてしまったことがあるが、僕のことを見ていてくれた人がいて、家まで送ってくれた。(生徒)

・階段のくだりが見えにくいので、段数を数えて下りたりしている。

・券売機で切符を買えないので、前に並んでいる人に頼んだりしている。(生徒)


4.読み書きを含めた、コミュニケーションについて、どのような工夫していますか。

・拡大読書器で、白黒反転にして使っている。外では、5倍程度のルーペを持ち歩いて、買い物をしている。

・携帯はらくらくホンを使っている。お買い物もできるので。

・点字はやり始めてまだ日が浅いので、なかなか読むところまではいっていない。なるべく早く始めた方がいいと思う。

・読みは点字だが、ニュースやお買い物などは音声パソコンに頼っているので、聞き読みである。郵便物は、周りの人に読んでもらう、リーディングサービスを利用する。歩行訓練の際に読んでもらうなどして、処理をしている。書きも点字であるが、長い文章などはパソコンを使って、漢字仮名交じり文を書いている。

・パソコンで覚え書きなどを使うことが多い。墨字で届いたものなどは、音声・拡大読書器「よむべえ」で読むこともある。


5.行政サービスやボランティアさんをどのように利用していますか。

・歩行訓練など

・同行援助や点訳など、行政サービスでやってもらっている。

・移動支援の時間数が超過した場合は、ボランティアさんに頼んでいる。


6.現在、どのようにして、趣味や生活を楽しんでいますか。

・カメラが趣味だが、画像の確認がむずかしくなってきた。

・テレビ番組を録画して、2倍速で聞くこと。

・テレビよりラジオをよく聞く。職場のパソコンは、拡大や音声対応になっているが、自宅のはまだ。

・陸上競技なども楽しんでいる。

・録音図書で読むのが好き。家事をしながらでも聞ける。

・水泳やフルマラソンなどもやったが、現在は気功をしている。そのことから、出かけることも増えて、人とのつながりもできるし、生活のはりもできる。

・サウンドテーブルテニスをやることによって、気持ちが前向きになってきた。

・身体を動かすように心がけて、ゴルフの成績があがることを楽しんでいる。

・鉄道が大好きで、母と一緒にでかけたりする。(生徒)

・11月の大会をめざして、マラソンをがんばるつもり。(生徒)

・グランドソフトに打ち込んでいるが、いろいろな人との出会いや経験ができて、良かった。(生徒)


7.自立生活を送るために、是非、身につけておいたらいいことなど。

(自立活動の授業に役立てたいと思います。)

・一般的ではないかもしれないが、親が箱入り息子のように育てたため、小さいとき、何もさせてもらえなかった。かなり大きくなってから、小さい時に経験できてなかったことをやることにかなりの時間を自分からとった。日常的な最低限の生活技術を、家族と一緒に楽しく身につけることが大切。生活を楽しむことが目的だが、なんでもひとりで解決することを目標としなくても、ちょっとしたことでも手助けをしてもらって生活の質をあげることも大切。

・いろいろな人に助けてもらったり、また助けてあげたりすることもありだと思う。 ・人とかかわることが苦痛になっていたこともあるが、外に出ていこうと思えるようになったのは、ボランティアさんの存在が大きい。人の輪に入っていこうとすること、人と繋がろうとすることも、自立生活には需要なことだと思う。 ・おしゃべりのできる所に出ていくことも必要だと思う。


8.参加者のアンケートの抜粋

・感動しました。皆さんすごいです!自立してみえます!がんばってみえます!健常者も見習わなければ…と思いました。明るい雰囲気が良かったです。司会が上手でした。生徒さん達みんな素直でかわいい子達だと思いました。いろいろ便利なグッズもあるのですね。

・充実した二時間でした。皆さんの生活がよくわかりました。自分の生活がいかにいいかげんなものか反省しきりです

・パネラーの方や生徒さんに衣食住などのそれぞれの工夫、体験などいろいろ、人生で大切なことを聞かせていただき、ありがとうございました。

・もっと一般の方にも参加してもらっては、どうでしょうか?とてもいい内容でした。

・パネラーさんのお話を聞いて私達健常者より、自由な生活を送ってみえる様に感じました。

・生活内容を聞き、自分で工夫していることがわかりました。色んな所を利用して生活を楽しんでおられる様に思いました。人とのつながりの大切さがわかりました。

・視覚障がい者の日常の生活についてよくわかりました。パネラーの方以外のフロアーの先生方や生徒たちの話も楽しかった。それぞれ、工夫しながら生活されていること、楽しみをみつけていきいきと生活されていることがわかった。

・なかなか日常生活のことを聞く機会がないので有意義でした。

・よくわかる身近なことで参考になりました。

・自分の知らない話を沢山聞けてよかったです。

・私が普段生活している中で何の不便さも感じていないことが(例えば、届いた郵便物の仕分け等)視覚的に不便な思いをされている方にとっては大変不便であることを知ることができました。でも、便利なツールや人の助けによってなんとかクリアできるということもわかりました。人の助けを受けるのってとてもためらいがあると思います。どんなに助けを受けても(こんな事言うのもダメですが)私と同じ生活はできないと思うんです。そんな葛藤とか不満とか聞ける機会があれば知ってみたいです。

・様々な暮らしぶりを聞かせて頂きありがとうございました。自分で選び決定するということが大切なんだなと思いました。

・とてもよかったです。もっともっと聞きたい思いが強いです。先の見通しをもって生活の援助として私たちに何が出来るのか…そんな研修をいっぱいしていきたいです

・本当に貴重なお話がたくさん聞けました。参加させていただいたこと、このつながりをこれからも大切にしていきたいと思います。

・部屋が長いのでパネラーさんの顔が見えなかった。パネラーさんを囲う様な形にしてほしい。生まれつき全盲の人の話を聞きたかったです。

・色々知らないことが聞けてよかったです。今度、勉強になりました。

・楽しさや苦い思いの話しを聞かせて頂きました。いろんなことで話が聞けてよかったです。子どもにしてあげたいことがみつかりました。


9.その他、視覚障がいについて知りたいことなど

・日常の体育のあり方など。

・食事の食べ方について知りたいです。

・幼児期の生活に何が必要なのか。手作りできる教材など

・色や物の概念等、点字の導入の方法等

・点字やスポーツ、あそびが知りたいと思ってます。


平成23年度公開講座の報告
「働く視覚障がい者が語る!」

平成25年度公開講座記録
「視覚障がいのある子どもを育てて」−親の経験から語り合う−



TOPページへ 研修トップへもどる