上高ニュース

2016年度 前期始業式(全日制)

2016.04.08

 アメリカのペンシルバニア州に、イタリアからの移民がつくったロゼトという町があります。この町では1950年代に、医学的に大変不思議な現象がみられました。心臓疾患の危険因子である喫煙、肥満、糖尿病、動物性脂肪の摂取量は他の町の住民と変わらないのに、ロゼトでは心臓疾患による死亡率が他の町よりも極端に低かったのです。「ロゼトの奇跡」と言われ、研究者の注目を集めました。その理由を探ろうと様々な調査が行われましたが、結局分かったことは、他の町と比べて「住民同士のつながりが強い」ということでした。何があっても周りが助けてくれるという安心感が心臓疾患を減らしていると研究者たちは考えたのです。ところが、時代が進み、ロゼトの住民同士の連帯感が弱まるにつれて、心臓疾患による死亡率も他の町と変わらなくなったそうです。

私たちは毎日、互いに頼ったり、頼られたりして暮らしています。時には迷惑をかけたり、迷惑をかけられたりもします。このような双方向の関係を嫌がり、過度な自立意識を振りかざして強がっていては連帯感など生まれません。パソコンやスマホが普及して、隣で仕事をしている同僚に口で言えばよいのにメールで用件を伝えるとか、1年経ても名前の分からないクラスメートがいるとか、人間関係の在り方が徐々に変化してきている例は枚挙に暇がありません。

前任校でのことです。中学までは聾学校で学び、高校は高校野球がしたいと前任校に進学した聴覚障がいを持つ生徒がいました。耳は全く聞こえません。彼のために前任校の生徒たちと先生方は何をしたか。野球部員は練習や試合で彼と意思疎通ができるよう「指言語」を覚え、クラスメートは文化祭の舞台発表で彼を中央に立たせて手話パフォーマンスを演じ、先生方は当番表を作って授業中に彼の隣で交代でノートを取りました。彼は、卒業式の答辞で、「この学校で最高の高校生活を送ることができた」と感謝の言葉を手話で表現しました。

私たちの日常には、「あなたのおかげで助かった。」「あなたがいるので何とかやっていける。」と言い合える関係がもっとあってもよいのではないか。当たり前のように助け合い、つながり合い、共に生きていく力、すなわち、共生社会を築いていく力こそ、今求められる「生きる力」だと、東日本大震災から5年経った今、改めて言いたいのです。

そのためにはどうすればよいか。先ずは、人が捨てたゴミを拾う。老人に電車の席を譲る。先に道を譲る。段差で動けない車椅子の人に手を差し伸べることです。これらのことは、「何故、私がこんなことをしなければならないのか。」という気持ちを乗り越えなければできないことです。「何故、自分だけが」という気持ちがある限り、他者とつながり合うことなどできません。

学校も同じです。学校行事等では、「自分の役割」と「他者の役割」の隙間にある「誰の仕事でもない仕事」は最初に気づいた者がする。「自分の仕事」なのか「他者の仕事」なのか判断に迷う仕事はさっさと引き受ける。これが共生社会の基本ルールだと思います。「自分のために」から「誰かのために」、「皆のために」へと考え方を転換し、「他者の幸せは自分の幸せ」と考える人が増えていけば、「孤立」に陥る者などいるはずはなく、「依存」から「共存」へ、そして「自立」へという道筋のなかで、一人ひとりが「生きる力」を身に付けていくのだと思うのです。

皆さんは今日から、新しい学年で学校生活を始めます。普通科の皆さんは新しいクラスメートと出会い、理数科の皆さんも気分一新で今日を迎えたことと思います。この一年は最高の一年だった、このクラスは最高のクラスだったと振り返ることができるよう、互いに助け合い、励まし合い、絆の強いクラスやクラブを作っていってください。

以上で前期始業式の話を終わります。

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