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2015年度修了式式辞

2016.03.29

2015年度の学校生活を締めくくるに当たり、今日は、私の一人の知人のことを話したいと思います。

 その知人は、私が最初に勤めた高校の教え子です。教え子と言っても、50歳を超える壮年です。彼は、私が顧問をしていた運動部の部員で、1年生の時の担任も私でした。

 彼が3年生の時の最後の公式試合でのことです。勝利を目前にした終盤、彼は痛恨の大きなエラーをしました。その後チームは浮足立ち、結局、我がチームは敗退しました。試合終了後、全員が泣き崩れ、それでも3年生のチームメイトは彼を抱きかかえながら声をかけていました。帰りのバスの中は、いつもなら賑やかな話し声が飛び交うはずが、誰もが沈痛の面持ちで、重苦しい雰囲気が漂いました。私も「早く学校に着いてくれ。」と祈るような気持ちだったことを今でも覚えています。実は、この痛恨のエラーが、彼のその後の人生に大きな影響を与えることになります。

 昨年のある日、彼から電話がかかってきました。それまで、そのチームの同窓会が何度か開かれていたのですが、彼はほとんど出席することがなかったので、本当に久しぶりでした。転勤で故郷に戻ることになったこと、ある仕事の責任者となったことなどを話してくれました。私は、次の日に彼と会う約束をしました。

 次の日の夕方、いつもより少し早く学校を出て、彼の住む町まで車を走らせました。そして、一緒に食事をしながら、彼は、その「苦い思い出」をバネにして生きてきたことを話してくれたのです。

 私は、あの頃と同じように真っ黒に日焼けした顔と年齢にしては皺が多いことに驚きました。相変わらず口数が少なく、昔をしのばせる笑顔で、静かに、あの頃と同じような口調で話してくれました。私は、彼が私に連絡をくれて久しぶりに会えたことも嬉しかったのですが、一番嬉しかったのは、「あのエラーがあったから、俺はここまでやってこれたんさ。」と言ってくれたことです。かつての教え子が高校卒業後約30年の間、「苦い思い出」をバネにして強く生き抜いてきたということを知り、心の底から嬉しさを覚えました。そして、彼の部顧問、担任だったことを誇らしく思いました。

 「過去に何があったか」が幸不幸を決めるのではない。悔しさをバネに前向きに生きていく。どんな辛い経験にも意味があると思える「強さ」を皆さんに持ってほしい。そんな思いで今日、知人の話をしました。

 今日は、一年間の締めくくりの日です。また、本年度末の人事異動で何名かの先生方との別れの日でもあります。しっかりと一年の締めくくりをして、本校を離任される先生方を感謝の気持ちで爽やかに送り出してください。

 以上で、修了式の話を終わります。

2016年3月24日(全日制)
3月22日(定時制)
東 則尚  

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