上高ニュース

平成27年度卒業式 式辞(定時制)

2016.03.02

今日から弥生三月。天地自然の営みが、風光る春の訪れを予感させる今日の良き日、御来賓の皆様、卒業生の保護者の皆様の御臨席のもと、平成二十七年度卒業式を挙行できますことは、私共のこの上ない喜びであり、誠に嬉しく存じます。本校を代表し、深く感謝申し上げます。

 高等学校卒業という人生の大きな節目を迎え、未来に向かって羽ばたこうとしている11名の皆さん、卒業おめでとう。希望と不安が惜別の思いに交錯し、複雑な気持ちの中で爽やかな清新さを感じる、そんな心境ではないかと思います。皆さんは四年間、勉学は勿論、学校行事や生徒会活動その他さまざまな活動に取り組み、上野高校定時制の歴史に新たな一ページを書き加えてくれました。皆さん一人一人の努力に、称賛の拍手を送りたいと思います。そして、私たち教職員に多くの感動と、この学校で勤務する喜びを与えてくれたことに、心から感謝します。本当にありがとう。

 そして、皆さんを支えてくれた多くの人々、ことに皆さんの成長を心待ちにし、深い愛情で見守っていただいた保護者の皆様に、心よりの敬意と感謝の気持ちを込めて、お祝いの言葉を申し上げたいと存じます。「保護者の皆様、本日はお子様のご卒業、誠におめでとうございます。」今日のお子様の姿をご覧になり、さぞかし感慨もひとしおのものがおありであろうと拝察いたします。心からお喜び申し上げます。

 さて、卒業生の皆さん。皆さんは今、卒業を機に大きな一歩を踏み出そうとしています。どうか、夢に向かって初志貫徹を果たしてください。一方で、挑戦はしたものの希望の実現には結び付かなかった人もいます。卑屈になる必要はありません。若い頃の志を貫ける人はそう多くはないのです。長い人生の中では、環境の変化で、あるいは自分の心境の変化で方向転換することもあります。

 どのような道を歩むにせよ、高校を卒業するということは、責任ある存在として社会に認知されるということです。今後は、責任に裏打ちされた行動が一層求められます。自己責任の重さは、今までとは比べようがないものになります。

 高等学校卒業。それは、人に愛される自分から、人を愛する自分に変わる時です。甘えと決別し、感謝の心で一人立ちをする時です。そして、学ぶべきことを与えられる自分から、何を学ぶべきかを自分で考え、自力で学ぶ自分に変わる時です。いかなる状況にあっても、どんな人生を生きようとも、学ぶことに終わりはありません。生涯、辞書を引き続けてください。常に新しい知識を学び、知ることに終わりなきことを肝に銘じてください。

 皆さんは若い。「若い」という字は「苦しい」という字に似ています。苦難は誰にでもあります。そして、年齢と共に増えていくものです。しかし、若い皆さんの苦しみは、もう一歩で、もう少し縦の一画を横にそらすことで、「若さ」即ち「成長の可能性」を秘めています。私はそこに「若さ」のしなやかさを感じ取ります。

 苦しい時は、闇の中にいるようで、それが永遠に続くような気がします。しかし、そうではありません。冬は必ず春になります。冬の寒さを知る人だけが、暖かい春の幸せを実感できます。誰よりも苦しんだ人が、誰よりも人の心が分かる人になれるのだと思います。私はそこに「苦しみ」の希望を感じ取ります。

 昨年、ワールドカップ2015イングランド大会で、優勝2回の強豪・南アフリカを破る大躍進を果たしたラグビー日本代表。その勝利はラグビー史上最大の“番狂わせ”と言われ、日本のみならず全世界を感動の渦に巻き込みました。日本代表の主将を務めたリーチ・マイケル選手は、「たまたま勝てたわけではない。相手の調子が悪かったからでもない。課題を明確にし、緻密に練られた“世界一厳しい練習”をしてきたからだ。」と断言します。

 3点リードされて迎えた試合終了間際、南アフリカの反則で、敵陣ゴール前でのペナルティーゴールを決めれば同点に追いつくチャンスを得た時、決断を委ねられたリーチ主将は、迷うことなく、ペナルティーキックではなく逆転トライを狙うスクラムを選択します。「冷静に粘り強くプレーすれば、この試合は絶対に勝てると確信していました。『必ず勝つ』と決めて準備してきたからです。」と振り返ります。

 「苦難こそ希望の証。ピンチは飛躍の踏み台。」この醍醐味を知るとき、人生は強く、明るく、生きるに値するものとなります。

 さあ、卒業生の皆さん。船出です。帆を張り、大海原に船を漕ぎ出す時です。東に進むのか、西に進むのか、決めるのは海の風ではありません。帆のかけ方です。皆さん自身の心の構えです。海は凪か時化か。運命の風に翻弄されてはいけません。海図を読み、位置を確かめ、目指すゴールを見定め、仲間と交信しながら、智恵と勇気で疾風怒濤の中を乗り越えていってください。そして、陸で無事を祈る大切な人々に連絡を怠ることなく、時には魚と戯れ、時には夜空の星の瞬きに心をときめかせ、人生の航海日記に書き込みを続けていってください。

 最後になりましたが、御多用の中、御臨席賜りました御来賓の皆様方、本日は誠に有難うございます。これからも本校に温かい御支援を賜り、卒業生、在校生を見守って頂きますようよろしくお願い申し上げます。

 卒業生11名の船出を祝い、前途に幸多かれと祈りつつ、式辞と致します。

2016年3月1日 東 則尚

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