三重県立盲学校
盲重複グループ研修
「併せ持つ障害についての基礎認識と教材作り」
第4回盲重複グループ研修
平成17年2月24日
「肢体不自由を併せ持つ盲重複について」
肢体不自由についての概論
1.脳性麻痺 Cerebral Palsy(CP)
(1)定義
@受胎から新生児(生後4週間以内)間での間に生じた、脳の非進行性病変に基づく永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達地帯は除外する。(厚生省脳性麻痺研究班、1968)
A脳性麻痺は、脳の成長・発達が完成する以前に脳に将来した損傷による、永続的な、しかし変化することもあり得る姿勢および運動の異常であって、その他の多くの障害が合併することがあり得る。(国際リハビリテーション協会、脳性麻痺委員会)
B頻度:小児人口約1,000人に一人
(2)原因
@新生児仮死 出生頃の無酸素・低酸素→脳幹・大脳基底核・大脳皮質の障害
A低出生体重→痙直型脳性麻痺が多い
B核黄疸→錐体外路症状
C出生前要因:遺伝子異常、感染、胎生期の低酸素症(栄養障害)
(3)病型分類(筋緊張・姿勢・運動パターンによる分類)
@痙直型spastic type:皮質運動領域を中心とした錐体路の障害を種とする物、約60−70%(強剛型)
- ア。障害部位別分類(図1→省略)
- イ。痙直・強剛:筋トーヌスの昂進した状態
- 痙直:
- 急激な被運動に際して抵抗を示す。運動の初めは抵抗が大であるところから急に抵抗が減ずる。錐体路症状 clasp-knife phenomenon(折りたたみナイフ現象)
- 強剛:
- 屈筋も伸筋も絶えず緊張が昂進しており、被運動に際しては、常に抵抗がある。錐体外路系障害も含むlead-pipe rigidity(鉛管様硬直)
- ウ。痙直型のタイプ
- 大脳皮質が広範に障害を受ける→
- 四肢麻痺+重度精神遅滞
- 限局された障害→
- 両麻痺、対麻痺、精神遅滞も軽度
Aアテトーゼ型 athetotic type:不随意運動を主とするもの(錐体外路性脳性麻痺、約15−30%)
- ア。原因
- 核黄疸の後遺症←大脳基底核の障害
- 新生児仮死の後遺症でも見られる
- イ。症状
- 知能の正常な場合も多い←皮質障害が乏しいため
- アテトーゼ:姿勢運動が絶えず一定せず、ゆっくり動くこと
B失調型:小脳障害による運動失調を主とする
C無緊張型:筋の緊張低下(中枢神経の障害による)が主、随意運動・不随意運動とも欠ける、重度の知的障害を伴う
D混合型
(4)随伴障害
@知能障害:40−50%
Aてんかん:乳幼児の20−30%、年長では40−50%、痙直型や重度精神遅滞を伴う場合に多い
- 痙攣重積状態:
- 脳性麻痺児の死因の約1割
B言語障害
- 構音障害:
- 筋運動の機能障害が中心、アテトーゼ型に特に多い。口唇・舌・下顎の機能障害→構音・呼吸・発声の問題
- 表象機能の障害:
- 知能・聴覚・視覚の問題との関連
- 症状:
- 発語明瞭度が低い、流暢に話せない、心理的緊張が高まる
C視力障害:1/3に斜視など
D聴力障害:10−20%。核黄疸では蝸牛核にビリルビン沈着
(5)治療
@理学療法
- 早期治療:
- 生後6ヶ月以内に治療を開始(4ヶ月が転換点)
- 理学療法:
- 異常姿勢や異常運動パターンの固定化を防ぎ、正常な運動制御パターンを覚えさせる
- 単なる反復練習では非能率的、動作の構成を分析する必要性
- 拘縮(股膝関節の屈曲性拘縮、股関節の内転性拘縮、足関節の尖足など)の予防、改善
- ア。ボバース(Bobarth)法:神経発達学的アプローチ
- 脳性麻痺児の異常姿勢パターン・異常緊張の分析
- ↓
- 異常な姿勢反射を抑制、正しい反射・運動パターンを促進
- イ。ボイタ(Vojta)法:
- 人の基本移動運動パターン(寝返りと腹這い運動)を正常な形で(異常なパターンや反射を排除して)実現するなかで、異常性を克服する。
- 早期治療の効果(重症心身障害レベル)
- →著効果36%、有効群17%、無効群47%(辻報告)
A食事療法←正しい姿勢(座位、上体高位、首・体幹の安定)
- ア。かむ訓練(下顎の回旋)
- イ。スプーンを使って食べる訓練
- ウ。コップで飲む訓練
- エ。ストローで吸う訓練
- オ。飲み込み動作の誘発
- カ。ルード法(図2→省略)
B言語療法とコミュニケーションの方法
- ア。呼吸パターンの正常化:異常な反射・筋緊張の抑制
- イ。構音訓練とその基礎訓練(下顎・口唇・舌の分離・協調)
- ウ。言葉への関心を高める
- エ。話す意欲を育てる
- オ。身振り言語獲得
- カ。コミュニケーション手段の獲得(トーキング・エイドなど)
2.重症心身障がい児
(1)定義
- @児童福祉法による定義
- 「重症心身障害施設とは、重度の精神薄弱及び重度の肢体不自由が重複している児童を入所させ、これを保護するとともに、治療及び日常の指導をすることを目的とする施設とする。」
- A大島分類(図3→省略)
- B動く重症心身障がい児について(図4→省略)
(2)予後
- 死因:
- 呼吸器感染が約半分
- 他にも心不全、窒息など
(3)姿勢保持
- @良い姿勢とは
- 適度に脊柱を伸展させ、頭部・体幹を正中位に保ち、腹部がリラックスする構え、それに伴う上肢・下肢の構え。
- A抗重力位の意義
- ア。消化器系:誤嚥の予防、胃食道逆流の予防、排便の促進
- イ。骨・関節系:成長促進、上肢の機能改善、胸郭扁平化の予防
- ウ。循環系:褥瘡の予防
- エ。呼吸系:気道の確保、換気能力の改善(円滑な肋骨・横隔膜運動)
- オ。精神系:視界の確保
- B注意点
- ア。良い姿勢の保持が困難
- イ。脊柱変形の危険 ※姿勢変化:1時間毎(同じ姿勢は2時間まで)
- ウ。代謝性の過緊張
(4)食事
- @嚥下の生理
- 第1期:口腔期(物体を口腔から咽頭に):横紋筋の随意運動
- 第2期:咽頭期(咽頭から食道に):横紋筋の反射運動
- ア。軟口蓋の挙上
- イ。舌の挙上
- ウ。咽頭内腔の閉鎖、咽頭部挙上(咽頭蓋が後方に倒れる)
- エ。食道への通路が開く
- オ。咽頭の蠕動状運動
- 第3期:食道期(食道から胃に):平滑筋の蠕動運動
- A誤嚥の予防
- 体幹の角度
- 軽度障がい児:
- 45°−90°
- 軽度障害で首の座っていない場合:
- 45°
- 重症児:
- 15°−45°(嚥下の時に重力を利用できる)
- 粘ちゅう度の高いものを投与
- 液体と固形物を別に投与
- 誤嚥の影響→気管支肺炎、咽頭攣縮、気管支攣縮、窒息
- B経管栄養の場合の注意点
- C重症児・者の食事介助における注意点(平山)
- ア。精神運動発達を考慮して、栄養法、食事介助の仕方を決める。
- イ。長年行われてきた食事介助の方法を急に変えては危険である。
- ウ。咀嚼機能の獲得にはある程度以上の知能が必要である。
- エ。嚥下機能は嚥下の繰り返しにより発達する。
- オ。食事介助のタイミングは、長年介助してきた親から教わる。
- カ。食事中のむせ込みは誤嚥ととらえ、むせがひどいときには経口的な食事介助に固執しない。
(5)呼吸
上気道狭窄による呼吸障害←のどを広げる
- @原因
- 筋緊張異常による舌根・下顎の後退
- 後方へのそり返りによる頸椎突出
- 鼻アレルギーや慢性副鼻腔炎による閉塞
- 口が開いた時の舌の後退による呼吸障害(緊張の強いアテトーゼ型の場合)
- 重症児では誤嚥、慢性呼吸器感染症による呼吸障害が多い
- A症状
- 多呼吸、陥没呼吸、喘鳴、チアノーゼ、頻脈など
- B対策
- 下顎を軽く前に出す
- 仰臥位(下顎・舌根の沈下)より側臥位・腹臥位
- 通学バスでは強い後屈位・前屈位を避ける(頸部の後ろをしっかり支える)
- 体位排痰法:重力を利用して痰を咽頭に移動させ、排痰を促進(図5→省略)
(6)排便
@便秘←食品、早期空腹時の水、腹筋訓練(図6→省略)、生活リズム、薬、姿勢
A排尿困難による尿路感染症の発生 カテーテル使用の場合
(7)骨折
- @原因:
- 栄養、廃用性骨萎縮、関節拘縮、抗痙攣薬の影響
- A日常の対策
- ア。介護状の注意
- 衝撃が一カ所にかからない要注意
- 日照時間を長く取る
- イ。食事
- タンパク質、カルシウム、ビタミンDの豊富な食事
- ウ。運動・姿勢
- 介助しながらでも自動運動の機会を増やす
- 抗重力姿勢を多く取らせる
- B骨折時の処置
- ア。固定:骨折箇所を動かさないこと
- イ。ショックへの注意
(8)筋緊張の強い児への対策
- @原因・誘因の検討
- 心理的要因(精神性ストレス、環境の変化など)、痛み、発熱、急激な気温変化、体調不良、疲労、空腹、口渇、脱水、消化管障害(逆流性食道炎など)、呼吸障害、 誤嚥、睡眠不足
- A対策
- ア。心理的対応 リズムのある生活、豊富なコミュニケーション、急激な環境の変化を避ける
- イ。適切な姿勢保持、機能訓練対応
- ウ。薬物療法
(9)側彎
- @合併症状
- 肺機能低下、胃食道逆流、十二指腸の通過障害など
- A原因
- 体幹の筋緊張の左右差、頭部が片側のみを向いていること、股関節脱臼の有無
- B対策
- 頭部を左右に回す機能を促進し、頭部が正面を向く姿勢を取る
- 長時間の座位は避ける
(10)その他
@体温調整←水分補給(特に発熱時)、衣服の調節をこまめに
A姿勢変換→褥瘡(床ずれ)の予防、関節拘縮の予防
後半は、脳性麻痺成人男性に対する作業療法支援について、実習経験者からの体験を聞いた。
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