身体障がい者全体に占める視覚障がい者の割合は1割程度で、約30万人程度です。地域社会における共生の実現は徐々に進みつつありますが、視覚障がいについての認識・理解はまだまだ十分とはいえません。
視覚障がい=全盲と捉えがちになりますが、実際は「見えにくい」といったように視覚からの情報を得にくい弱視者が7割を占めています。また、中途視覚障がい者が年々増加しています。
本校では小学部から高等部までの学部があります。また、高等部には普通科と、「あん摩・マッサージ・指圧、鍼、灸」の国家資格取得を目指す「理療科」があります。児童・生徒の障がいの程度も多岐にわたり、年齢層も小学校入学年齢から、60代の理療科生までが一緒に学んでいます。そのため盲学校での教育においては、視覚障がいについての専門的な指導が重要であることはもちろんのこと、個々の特性に応じた学習・支援の充実が求められます。また、県内では唯一の盲学校であるため視覚障がいに関わるセンター的役割も求められています。
本校では児童・生徒が卒業後に居住地でスムーズに生活していくために、地域連携会議などを通して、諸機関との連携を図っています。また、現場実習や啓発活動を行い、地域住民や事業者に視覚障がいや、視覚障がい者の就労についての理解を深めていただく取り組みを進めています。
今回のレポートでは、これらの取り組みの中で理療科に関わるものを通して、事例を踏まえ成果と今後の課題について報告します。
理療科では1年時に治療院や施設の見学実習を、2年時には現場での体験実習を、3年時には就職を見据えた現場実習をおこなっていくことを目標としています。
センターパレスやアスト津、福祉施設などでの催しものに合わせ、盲学校の紹介とともに、地域の方々にマッサージ施術を体験していただく取り組みを実施しています。
職員が行う啓発活動については、地域とのつながりを重視したいものや、生徒の就労の機会へつなげたいものなど、職員が、丁寧に啓発・説明をしながら施術すべきものについて取り組んでいます。
実習や啓発先などで、多くの人に盲学校や、視覚障がいについて知っていただくいい機会となっています。また、メディアや市の広報などを利用したことで、盲学校への問い合わせなども増えています。
実習を行うことで、生徒一人一人に目標ができ、実技に前向きに取り組むようになってきました。また多くの人に施術を行うことにより、症状に合わせた対応を考えるよい機会になっています。さらに、コミュニケーションの大切さを感じる場ともなっています。
企業や施設などにおいては、生徒が現場実習を行うことで、視覚障がい者に必要な支援について考えていただけるきっかけになっています。
弱視、全盲など、個々にどれだけの援助が必要なのかを実際に感じてもらえています。
ある福祉施設での啓発活動で、マッサージ施術を行ったところ、利用者の方々にとても喜んでもらえました。後日、その利用者の方々から希望が出されたことがきっかけとなり、あん摩マッサージ指圧師の就労が実現した事例もあります。
生徒の実習については、学習状況、施術の習熟度など実態は様々で、実習を行う内容・時期について、必要性を精査して行わなければなりません。長期休業中だけでなく、学期中に行う場合には授業に遅れが生じます。そのため、実習期間の補いについても考える必要があります。また、現場実習に向けての実技指導など、基礎実習では行えないものについて、指導の時間の確保についても検討が必要です。
職員による啓発活動では、直接就労機会の拡大につながるものが望ましいと思われますが、間接的に就労機会の拡大につながる取り組みもおこなっています。ともすれば、実施回数が多くなってしまいます。啓発活動についても、生徒の実習と同様に、検討していく必要があります。
現場実習や啓発活動などの取り組みにより、盲学校や視覚障がい、あん摩マッサージ指圧について少しずつ知って頂けるようになってきています。複数回にわたり取り組んでいるものについては、開催前から問い合わせがあり、毎年楽しみにしているなどの言葉を頂けるようになってきています。徐々にではありますが地域の方々に浸透してきていると感じられます。
今回のレポートでは、理療を通して本校の実習と啓発活動を紹介してきました。しかし、視覚障がい者の就労は、あん摩・マッサージ・指圧に限られたものではありません。高等部普通科を卒業して、一般就労や福祉的就労に就く生徒もいます。大学等に進学し、その後就労を目指す生徒もいます。また理療科の生徒の中にも、理療以外の進路を選択するケースもあります。現場実習についても、理療に関わる分野だけでなく、より多くの方面へ拡大していく必要があります。そのことにより、職域の拡大も図られると思います。あんまマッサージ指圧による啓発活動が、そのきっかけの一つとなることを期待しています。
視覚に障がいがある者がその居住地域において、役割をもって生き生きと生活できるようにするにはどうすればよいか?地域の人々への啓発活動は、その手がかりとなる大切な取り組みと考えます。
今後も、視覚障がいへの理解を広げる活動のあり方について、地域や諸機関との連携を深める中で、継続・検討していきたいと思います。